花々の大盛りオオバコ

Penstemon_heterophyllus
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クロンキスト体系時代からAPG IVへの再配置

 クロンキスト体系時代、オオバコ科は独立した科として認識されていましたが、その分類学的位置づけは不安定でした。APG III(2009年)では、オオバコ科はシソ目に含まれるようになりました。しかし、分子系統学的研究の進展により、APG IV(2016年)でオオバコ科の範囲が大幅に拡大されました。

 この再配置により、従来別の科とされていた多くの属がオオバコ科に統合されました。特に注目すべきは、旧ゴマノハグサ科の大部分がオオバコ科に移されたことです。これにより、オオバコ科は約100属1,800種を含む大規模な科となりました。

 主な移動は以下の通りです。

  1. オオバコ科へ移動した属:
  • キンギョソウ属 (Antirrhinum)
  • ジギタリス属 (Digitalis)
  • クワガタソウ属 (Veronica)
  • ウンラン属 (Linaria)
    など
  1. ゴマノハグサ科に残った属:
  • フジウツギ属 (Buddleja)(旧フジウツギ科から統合)
  • ハマジンチョウ属 (Myoporum)(旧ハマジンチョウ科から統合)
  1. 他の科へ移動した属:
  • アゼナ属 (Lindernia)、ツルウリクサ属 (Torenia) → アゼナ科
  • コゴメグサ属 (Euphrasia)、シオガマギク属 (Pedicularis) → ハマウツボ科
  • サギゴケ属 (Mazus)、ミゾホオズキ属 (Mimulus) → ハエドクソウ科
  • キリ属 (Paulownia) → キリ科

 この再分類は、分子系統学的研究に基づいて行われ、植物の進化的関係をより正確に反映しています。結果として、旧ゴマノハグサ科は複数の科に分割され、一部はオオバコ科に統合されました。

オオバコ科に新設された12連

 APG IVでのオオバコ科の拡大に伴い、科内の多様性を反映するため、12の連(tribe)が新設または再編成されました。これらの連は、分子系統学的研究に基づいて設立され、形態学的特徴も考慮されています。

主な連には以下のようなものがあります。

  1. Digitalideae連 – ジギタリス連
  2. Veroniceae連 – クワガタソウ連
  3. Plantagineae連 – オオバコ連
  4. Globularieae連 – グロブラリア連
  5. Hemiphragmateae連 – ヘミフラグマ連
  6. Angelonieae連 – アンゲロニア連
  7. Gratioleae連 – グラチオラ連
  8. Antirrhineae連 – キンギョソウ連
  9. Callitricheae連 – アワゴケ連
  10. Sibthorpieae連 – シブトルピア連
  11. Cheloneae連 – チェロネ連
  12. Russelieae連 – ルッセリア連

 これらの連の設立により、オオバコ科内の系統関係がより明確になり、科内の多様性を体系的に理解することが可能になりました。

分子系統学的所見と色彩の多様性

 オオバコ科の拡大における最も重要な分類学的所見は、従来別々の科とされていた植物群が実は近縁であることが明らかになったことです。特に、旧ゴマノハグサ科の多くの属がオオバコ科に統合されたことは、植物分類学に大きな影響を与えました。また、寄生性や半寄生性の植物(例:ハマウツボ属)が非寄生性の植物と近縁であることも明らかになり、植物の進化における適応戦略の多様性を示す重要な例となりました。

 さらに、オオバコ科の植物が色調多彩で魅力的である理由は、分子系統学的研究から以下のように説明できます:

  1. 遺伝的多様性:オオバコ科は進化の過程で多様な環境に適応してきたため、花の色素生成に関与する遺伝子の多様性が高くなっています。
  2. 適応放散:異なる環境や送粉者に適応する過程で、様々な花の色や形態が進化しました。
  3. 遺伝子の重複と新機能獲得:色素合成に関与する遺伝子が重複し、新しい機能を獲得したことで、多様な色調が生まれました。
  4. 調節遺伝子の進化:花の色や模様を制御する調節遺伝子の進化により、複雑な色彩パターンが可能になりました。
  5. 環境応答性:一部の種では、環境条件(pH、温度など)に応じて花の色が変化する能力を進化させました。

これらの要因が組み合わさることで、オオバコ科の植物は多彩で魅力的な花を咲かせるようになりました。

オオバコ科12連から見た代表的な花

オオバコ科の12連から、代表的な花をいくつか挙げてみます。

  1. アンゲロニア(Angelonieae)連 :
  2. グラチオラ(Gratioleae)連 :
    • バコパなど、色彩も豊富で花壇の全景やエッジに利用されます。
    • Bacopa(バコパ)属 : B. monnieri (ブラフミー), B. caroliniana (ブルーヘイズ)
    • Gratiola属 : G. officinalis (ヘッジヒソップ)
    • Scoparia属 : S. dulcis (スイートブルーム)
  3. ルッセリア(Russelieae)連 :
  4. チェロネ(Cheloneae)連 :
    • ペンステモンやリオンは人気の園芸品種です。
    • Penstemon(ペンステモン)属 : P. barbatus (ビアードタング), P. digitalis, P. heterophyllus (ペンステモン・エレクトリックブルー)
    • Chelone属 (リオン): C. glabra (ホワイトタートルヘッド), C. lyonii (ピンクタートルヘッド)
  5. キンギョソウ(Antirrhineae)連 :
    • 口を開けた金魚のような形の花が、様々な色で咲きます。
    • Antirrhinum属 : A. majus (キンギョソウ), A. hispanicum
    • Linaria(リナリア)属 : L. vulgaris (キバナウンラン), L. purpurea (パープルトードフラックス)
    • Cymbalaria属 : C. muralis (ツタバウンラン)
  6. シブトルピア(Sibthorpieae)連 :
    • Sibthorpia属 : S. europaea (クリーピングジェニー)
  7. アワゴケ(Callitricheae)連 :
    • Callitriche属 : C. stagnalis (ウォータースターウォート)
  8. グロブラリア(Globularieae)連 :
  9. ヘミフラグマ(Hemiphragmeae)連 :
  10. ジギタリス(Digitalideae)連 :
  11. オオバコ(Plantagineae)連 :
    • 小さな白い花が穂状に密集して咲く、身近な雑草です。
    • Plantago属: P. major (オオバコ), P. lanceolata (ヘラオオバコ), P. psyllium (サイリウム)
  12. クワガタソウ(Veroniceae)連 :

 これらの花々は、オオバコ科の多様性と美しさを象徴し、庭園や室内を彩る重要な役割を果たしています。

稀少な園芸種

 オオバコ科には、一般的な園芸種だけでなく、稀少で特殊な園芸種も含まれています。

  1. ヘベ(Hebe)
    ニュージーランド原産の常緑低木で、小さな花を穂状につけます。一部の種は絶滅危惧種に指定されており、保全活動の対象となっています。
  2. オウレイカ(Ourisia)
    南米とニュージーランドに分布する多年草で、鮮やかな赤い花を咲かせます。高山性の種が多く、栽培が難しいため、稀少な園芸種として扱われています。
  3. テトラネマ(Tetranema)
    中米原産の多年草で、紫色の小さな花を咲かせます。栽培が難しく、特殊な環境を必要とするため、稀少な園芸種として扱われています。

 これらの稀少な園芸種は、その特殊性と栽培の難しさから、植物愛好家や専門家の間で高い関心を集めています。同時に、これらの種の保全は、生物多様性の維持という観点からも重要です。

オオバコ科の今後

 オオバコ科の再編と拡大は、植物分類学における重要な進展を示しています。今後、この科の研究はさらに進展し、以下のような方向性が考えられます。

  1. 系統関係の精緻化:
    より詳細な分子系統学的研究により、オオバコ科内の系統関係がさらに明確になる可能性があります。
  2. 進化メカニズムの解明:
    オオバコ科内の多様な適応戦略(寄生性の獲得など)の進化メカニズムが、より詳細に解明されることが期待されます。
  3. 新種の発見:
    特に熱帯地域や未調査地域において、新種のオオバコ科植物が発見される可能性があります。
  4. 保全生物学への貢献:
    稀少種や絶滅危惧種の研究が進み、より効果的な保全戦略が立てられることが期待されます。
  5. 園芸利用の拡大:
    新たな園芸品種の開発や、これまであまり注目されていなかった種の園芸利用が進む可能性があります。
  6. 薬用植物としての研究:
    オオバコ科には伝統的に薬用として使用されてきた植物が多くあります。今後、新たな薬効成分の発見や、既知の成分の新たな利用法が見出される可能性があります。
  7. 環境指標としての活用:
    一部のオオバコ科植物は、特定の環境条件に敏感に反応します。これらの植物を環境モニタリングに活用する研究が進む可能性があります。
  8. ゲノム研究の進展:
    オオバコ科全体のゲノム解析が進むことで、花の色彩や形態の多様性、環境適応能力などの遺伝的基盤がより明確になることが期待されます。

 オオバコ科の「花々の大盛りバスケット」は、今後もさらに賑わいを増していくと思われます。

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