食虫植物:緑の捕食者・昆虫を誘う致命的な美

White-topped pitcher plant
White-topped pitcher plant: photo by photo: by HiC

 食虫植物は、自然界の中でも特に魅力的で不思議な存在です。栄養分の乏しい環境に適応し、昆虫を捕らえて栄養を補う能力を進化させたこれらの植物は、その独特な形態と機能で多くの人々を魅了してきました。ここでは、食虫植物の世界に深く潜り込み、その分類、育て方、鑑賞のポイント、おすすめの種類、そして食虫植物が持つ独特の魅力や役割について考察してみます。

目次

大まかな分類

 食虫植物は、その捕虫方法によっていくつかのグループに分類されます。主な分類は以下の通りです:

a) 粘着型捕虫植物:


 粘液を分泌する腺毛で昆虫を捕らえます。
例:モウセンゴケ属(Drosera)ヤマジノホロシ属(Drosophyllum)コウシンソウ属(Pinguicula) 

b) 吸虫型捕虫植物:


 真空を作り出して昆虫を吸い込みます。
例:ムジナモ属(Aldrovanda)タヌキモ属(Utricularia)

c) 落とし穴型捕虫植物:


 滑りやすい表面を持つ筒状の葉に昆虫を落とし込みます。
例:ウツボカズラ属(Nepenthes)サラセニア属(Sarracenia)

d) ハエトリ型捕虫植物:


 葉を素早く閉じて昆虫を捕らえます。
例:ハエトリソウ属(Dionaea) 

 これらの分類は、食虫植物が進化の過程で獲得した多様な捕虫戦略を反映しています。各グループの植物は、それぞれ独自の方法で昆虫を誘引し、捕獲し、消化するメカニズムを発達させています。

育て方

 食虫植物の育て方は、その自然生息環境を理解し、できるだけ再現することが重要です。以下に、一般的な育成のポイントを挙げます:

a) 光:
ほとんどの食虫植物は明るい場所を好みます。直射日光か、明るい日陰が適しています。室内で育てる場合は、南向きの窓際や人工光を使用するのが良いでしょう。

b) 水:
多くの食虫植物は湿った環境を好みます。ただし、水はけの良い土壌を使用し、根腐れに注意が必要です。雨水や蒸留水を使用し、水道水は避けましょう。

c) 土壌:
一般的に、ピートモスとパーライトを混ぜた酸性の土壌が適しています。種類によっては、ピートモスのみや、ピートモスと砂の混合土を好むものもあります。

d) 湿度:
多くの種類が高湿度を好みます。霧吹きで定期的に葉に水をかけたり、植物の周りに水を張ったトレイを置いたりすると良いでしょう。

e) 温度:
多くの食虫植物は温帯性で、室温で育てることができます。ただし、熱帯性の種類は高温を好み、一部の種類は冬季の休眠期間が必要です。

f) 肥料:
基本的に肥料は不要です。昆虫を与えることで十分な栄養を得られますが、屋内で育てる場合は、時々昆虫を与える必要があります。

g) 植え替え:
1〜2年に一度、春先に植え替えを行います。根を傷つけないよう注意しましょう。

h) 繁殖:
種子、株分け、葉挿しなど、種類によって適した方法が異なります。

 食虫植物の育成には、その特殊な生態を理解し、適切な環境を提供することが重要です。初心者の方は、比較的育てやすい種類から始め、徐々に経験を積んでいくことをおすすめします。

食虫植物の鑑賞点

 食虫植物の鑑賞ポイントは多岐にわたり、その独特な形態や機能、そして生態的な特徴が魅力となっています。以下に主な鑑賞ポイントを挙げます:

a) 捕虫器官の形態:
 食虫植物の最大の魅力は、その独特な捕虫器官です。例えば、ウツボカズラ(Nepenthes)の吊り下がった捕虫袋、ハエトリソウ(Dionaea muscipula)のトゲのある葉、モウセンゴケ(Drosera)の粘液を分泌する触手状の腺毛など、それぞれが独自の美しさを持っています。

b) 色彩:
 多くの食虫植物は、昆虫を誘引するために鮮やかな色彩を持っています。赤や紫、黄色などの色素は、単に美しいだけでなく、その生態学的な役割も興味深い鑑賞ポイントです。

c) 捕虫の瞬間:
 ハエトリソウのような素早い動きを見せる種類では、昆虫を捕らえる瞬間を観察することができます。この動的な側面は、植物の世界では珍しく、非常に魅力的です。

d) 消化過程:
 捕らえた昆虫が徐々に消化されていく過程も、マクロレンズなどを使用して観察すると非常に興味深いです。

e) 花:
 食虫植物も他の植物同様に花を咲かせます。その花は捕虫器官とは対照的に、しばしば繊細で美しいものが多く、また重要な鑑賞ポイントとなっています。

f) 生育環境の再現:
 テラリウムなどを使用して、食虫植物の自然生息環境を小規模に再現することも、一つの鑑賞方法です。これにより、植物の生態系における役割や適応の様子を観察することができます。

g) 種子や胞子:
 一部の種類では、種子や胞子の形成過程も興味深い観察ポイントです。特に、風で散布される種子を持つ種類では、その独特な形状や散布メカニズムが魅力的です。

h) 季節による変化:
 多くの食虫植物は、季節によって色や形態が変化します。例えば、サラセニア(Sarracenia)の一部の種は、秋になると捕虫袋の色が鮮やかに変化します。この季節変化を観察することも、長期的な鑑賞の楽しみの一つです。

i) 微細構造:
 ルーペや顕微鏡を使用すると、食虫植物の微細な構造を観察することができます。例えば、モウセンゴケの粘液を分泌する腺毛の構造や、ウツボカズラの捕虫袋内部の消化腺などは、非常に精巧で美しい構造を持っています。

j) 適応の多様性:
 異なる種類の食虫植物を比較観察することで、同じ「昆虫を捕らえる」という目的に対して、いかに多様な適応戦略が進化してきたかを理解し、鑑賞することができます。

 これらの鑑賞ポイントは、食虫植物が単なる観賞用植物以上の存在であることを示しています。その生態学的な特徴や進化の過程を理解しながら観察することで、より深い鑑賞体験を得ることができるでしょう。

初心者にお勧めの園芸種10種

 食虫植物の世界に初めて足を踏み入れる方にとって、育てやすく魅力的な種類から始めるのが良いでしょう。以下に、初心者におすすめの10種を紹介します:

1) ケープサンデュー(Cape sundew)
和名:アフリカナガバノモウセンゴケ
学名:Drosera capensis

photo: by HiC

特徴:細長い葉に粘液を分泌する腺毛が密生しています。成長が早く、室内でも育てやすい種類です。

2) ハエトリソウ(Venus flytrap)
和名:ハエトリソウ
学名:Dionaea muscipula

photo: by haku-

特徴:葉を素早く閉じて昆虫を捕らえる姿が有名です。明るい場所と高湿度を好みますが、比較的育てやすい種類です。

3) サラセニア・プルプレア(Purple pitcher plant)
和名:ムラサキサラセニア
学名:Sarracenia purpurea

photo: by HiC

特徴:筒状の捕虫袋を持ち、紫がかった赤色が美しい種類です。寒さにも強く、初心者向けです。

4) ウツボカズラ・アラータ(Alata pitcher plant)
和名:アラータウツボカズラ
学名:Nepenthes alata

photo: by HiC

特徴:吊り下がった捕虫袋が特徴的で、室内での栽培に適しています。比較的温和な環境を好みます。

5) コモウセンゴケ(Common sundew)
和名:コモウセンゴケ
学名:Drosera rotundifolia

photo: by hiro71

特徴:丸い葉に粘液を分泌する腺毛が密生しています。寒さに強く、屋外でも育てやすい種類です。

6) メキシカンピンギキュラ(Mexican butterwort)
和名:メキシココウシンソウ
学名:Pinguicula moranensis

photo: by HiC

特徴:葉に粘液を分泌し、小さな昆虫を捕らえます。美しい花を咲かせ、室内栽培に適しています。

7) サラセニア・フラバ(Yellow pitcher plant)
和名:キバナサラセニア
学名:Sarracenia flava

photo: by HiC

特徴:黄緑色の大きな捕虫袋を持ち、成長が早い種類です。屋外での栽培に適しています。

8) ネペンテス・ベントリコーサ(Ventricosa pitcher plant)
和名:ベントリコーサウツボカズラ
学名:Nepenthes ventricosa

photo: by HiC

特徴:小型で丈夫なウツボカズラの一種で、室内栽培に適しています。捕虫袋の形が美しく、初心者にも育てやすい種類です。

9) ドロセラ・アデレー(Adelae sundew)
和名:アデレーモウセンゴケ
学名:Drosera adelae

photo: by ぽふ×2

特徴:細長い葉を持つモウセンゴケの一種で、比較的大型に成長します。室内での栽培に適しており、育てやすい種類です。

10) サラセニア・レウコフィラ(White-topped pitcher plant)
和名:シロバナサラセニア
学名:Sarracenia leucophylla

photo: by HiC

特徴:捕虫袋の上部が白く、下部が赤い美しい配色が特徴的です。成長が早く、初心者でも育てやすい種類です。

 これらの種類は、比較的丈夫で育てやすく、かつ食虫植物特有の魅力を十分に楽しむことができる種類です。初心者の方は、これらの中から自分の環境や好みに合った種類を選んで、食虫植物の世界を探索し始めるのが良いでしょう。

珍しい園芸種5種

 食虫植物の世界には、より珍しく、栽培が難しい種類も多く存在します。これらは、経験豊富な愛好家やマニアの方々にとって魅力的な挑戦となるでしょう。以下に、マニア向けの珍しい園芸種5種を紹介します:

1) ネペンテス・ラジャ(Rajah pitcher plant)
和名:ラジャウツボカズラ
学名:Nepenthes rajah

 特徴:世界最大級の捕虫袋を持つウツボカズラとして知られています。捕虫袋は最大で3リットルの容量を持ち、小動物さえも捕らえることができます。高地性の種類で、涼しい環境と高湿度を好みます。栽培が非常に難しく、絶滅危惧種に指定されています。

2) セファロタス・フォリクラリス(Albany pitcher plant)
学名:Cephalotus follicularis

 特徴:オーストラリア南西部の固有種で、小型の捕虫袋を持ちます。ウツボカズラやサラセニアとは全く異なる科に属し、収斂進化の興味深い例です。栽培には高度な技術が必要で、温度や湿度の管理が難しい種類です。

3) ドロソフィルム・ルシタニクム(Portuguese dewy pine)
学名:Drosophyllum lusitanicum

 特徴:イベリア半島とモロッコに自生する珍しい食虫植物です。他の多くの食虫植物と異なり、乾燥した環境を好みます。長い葉に粘液を分泌する腺毛が密生し、強い甘い香りで昆虫を誘引します。栽培には特殊な環境が必要で、過湿に非常に弱いため、管理が難しい種類です。

4) ヘリアンフォラ・タタエイ(Sun pitcher plant)
学名:Heliamphora tatei

 特徴:南米のテプイ(卓状山)に自生する珍しい食虫植物です。サラセニアに似た捕虫袋を持ちますが、進化的には全く異なる系統です。高地性の種類で、涼しく湿った環境を好みます。栽培には特殊な環境制御が必要で、一般的な栽培は非常に困難です。

5) ビブリス・ギガンテア(Rainbow plant)
学名:Byblis gigantea

 特徴:オーストラリア西部に自生する大型の粘着型食虫植物です。長い茎に沿って粘液を分泌する腺毛が密生し、太陽光を受けると虹色に輝くことから「レインボープラント」とも呼ばれます。種子からの栽培が難しく、特殊な発芽処理が必要です。また、成長後も適切な環境管理が求められる難しい種類です。

 これらの珍しい種類は、その希少性や栽培の難しさから、多くの食虫植物愛好家にとって憧れの存在となっています。しかし、その多くが自然界では絶滅の危機に瀕しているため、栽培に挑戦する際は、合法的に入手された個体を用い、種の保全に配慮することが重要です。

 また、これらの種類の栽培には、高度な知識と技術、そして適切な設備が必要です。温度、湿度、光、水質など、細かな環境管理が求められ、一般的な家庭での栽培は非常に困難です。そのため、これらの種類に挑戦する前に、より一般的な食虫植物での経験を十分に積むことをおすすめします。

食虫植物の魅力や役割、注意点について

 食虫植物は、その独特な生態と形態から、多くの人々を魅了し続けています。ここでは、食虫植物の持つ様々な側面について、さらに詳しく見てみます。

a) 食虫植物の進化と適応:

 食虫植物は、進化の観点から非常に興味深い存在です。栄養分の乏しい環境に適応するため、複数の植物目で独立して食虫性が進化しました。食虫性は植物の世界で複数回独立して進化したことが知られています。この現象は「収斂進化」と呼ばれ、食虫植物はその代表的な例の一つです[ 1 ][18]。

 具体的には、以下の目で独立して食虫性が進化したと考えられています[ 17 ]:

  • ナデシコ目(Caryophyllales):モウセンゴケ科、ネペンテス科など
  • ツツジ目(Ericales):サラセニア科
  • シソ目(Lamiids):タヌキモ科、ムシトリスミレ属
  • カタバミ目(Oxalidales):フクロユキノシタ科
  • イネ目(Poales):ブロッキニア属

 これらの食虫性が「収斂進化」の結果、類似した形態を獲得することになりました。例えば、落とし穴型の捕虫葉は、ウツボカズラ属、サラセニア属、ヘリアンフォラ属など、異なる系統で独立に進化しています。
 一方で、ウツボカズラ(Nepenthes)とサラセニア(Sarracenia)の捕虫袋の上部にある「蓋」は、形態的に非常に似ており、相似器官である可能性が示唆されています[ 2 ]。両者とも、捕虫袋の開口部を覆い、雨水の侵入を防ぎつつ、昆虫を誘引する役割を果たしています。もしこれらの蓋が、相同器官であれば、共通祖先が既に蓋を持っていたことを示唆し、進化の過程を考える上で重要な情報となります。具体的には:

  1. 半透明な構造:両者の蓋は薄く、半透明な構造を持っています。これにより、昆虫を混乱させ、捕虫袋内部へ誘導する効果があります。
  2. 蜜腺の配置:蓋の内側には蜜腺が配置されており、昆虫を誘引します。この配置パターンも類似しています。
  3. 反射パターン:蓋の表面には、紫外線を反射するパターンが存在し、昆虫の視覚に訴えかけます。このパターンの存在も両者で共通しています。

 食虫植物の遺伝学研究も進んでおり、ハエトリソウの葉の閉じる動きに関与する遺伝子が特定されるなど、その独特な特徴の遺伝的基盤が明らかになりつつあります[ 3 ]。また、光合成と捕虫能力のバランスが環境条件によって変化する柔軟な適応能力も注目されています。

b) 食虫植物の生態系における役割と技術応用:

 食虫植物は、栄養分の乏しい湿地や岩場などで独特な生態系の一部を形成しています。昆虫を捕食することで、局所的な昆虫の個体数調整にも寄与しています[ 4 ]。

 さらに、食虫植物の特性は生物模倣技術(バイオミミクリー)の分野でも注目されています。具体的な応用分野には以下のようなものがあります:

  1. 材料科学:ウツボカズラの滑りやすい捕虫袋の表面構造は、新しい防汚材料や自己洗浄材料の開発に応用されています。この構造を模倣することで、汚れが付きにくく、水滴が簡単に転がり落ちる表面を作ることができます[ 5 ]。
  2. ロボット工学:ハエトリソウの素早く閉じるメカニズムは、高速で精密な動きを必要とするロボットアームの設計に応用されています。特に、低エネルギーで高速な動作を実現する上で参考にされています[ 6 ]。
  3. センサー技術:モウセンゴケの粘液腺毛の構造は、微小な刺激を検知する高感度センサーの開発に応用されています。これは、触覚センサーや圧力センサーの設計に活用されています[ 7 ]。
  4. 薬物送達システム:ウツボカズラの消化酵素分泌メカニズムは、制御された薬物放出システムの開発に応用されています。特定の条件下で活性化する薬物カプセルの設計に活用されています[ 8 ]。
  5. 水処理技術:食虫植物の栄養吸収メカニズムは、効率的な水質浄化システムの開発に応用されています。特に、低濃度の栄養塩類の除去に関する研究が進められています[ 9 ]。

 これらの応用研究は、持続可能な技術開発や環境負荷の低減に貢献することが期待されています。

c) 食虫植物の科学研究への貢献:

 食虫植物は、植物の進化、適応、生理学などの研究分野で重要な研究対象となっています。特に、植物の運動メカニズムや消化酵素の研究で重要な知見をもたらしています。

 最近の研究では、食虫植物の捕虫袋内の微生物叢(マイクロバイオーム)が昆虫の消化や栄養吸収に重要な役割を果たしていることが明らかになっています。この発見は、食虫植物と微生物の共生関係の複雑さを示すとともに、新たな微生物資源の可能性を示唆しています。

捕虫袋内の微生物叢の構造は、主に以下のような細菌群で構成されています[ 10 ]:

  1. Proteobacteria門:特にAlphaproteobacteriaとGammaproteobacteriaが優占しています。これらは有機物分解に関与し、昆虫の消化を助けています。
  2. Bacteroidetes門:多糖類の分解に特化した細菌群で、昆虫の外骨格の分解に貢献しています。
  3. Actinobacteria門:抗菌物質の生産に関与し、捕虫袋内の微生物環境の調整に寄与しています。
  4. Firmicutes門:タンパク質分解に関与し、昆虫体の消化を促進しています。

 これらの微生物叢は、捕虫袋の種類や環境条件によって異なる構成を示し、食虫植物の栄養吸収効率に大きく影響を与えています。

 また、食虫植物と昆虫の共進化も興味深い研究テーマです。例えば、ボルネオ島のネペンテス・ビカルカラタは特定のアリ種(Camponotus schmitzi)と共生関係を築いています[ 11 ]。この関係では:

  1. アリは捕虫袋の内部に巣を作り、捕虫袋を外敵から守ります。
  2. 植物はアリに住処と栄養(捕獲した昆虫の一部)を提供します。
  3. アリは捕虫袋内の昆虫の死骸を分解し、植物の栄養吸収を助けます。
  4. アリの存在が捕虫袋内の微生物叢の構成に影響を与え、独特の生態系を形成しています。
  5. この共生関係により、ネペンテス・ビカルカラタは他の食虫植物よりも大型の昆虫を捕獲・消化することができます。

 この共生関係は、生態学的にも進化学的にも重要な研究対象となっており、種間相互作用の複雑さと適応進化の過程を理解する上で貴重な知見を提供しています。

 さらに、食虫植物の研究は植物の可塑性や環境応答メカニズムの理解にも貢献しています。例えば、一部の食虫植物は環境条件に応じて捕虫能力と光合成能力のバランスを調整することが知られており、これは植物の資源配分戦略を研究する上で重要なモデルとなっています。

d) 食虫植物の医療と健康への応用:

 食虫植物の一部の種が分泌する消化酵素には、抗菌作用や抗炎症作用が確認されており、新しい医薬品開発の可能性が研究されています。また、伝統医学においても、一部の食虫植物が利用されてきました。例えば、ドロセラ(モウセンゴケ)の一部の種は、ヨーロッパで古くから咳止めや抗菌剤として使用されてきました。

 食虫植物由来の成分の医療応用研究には、以下のようなものがあります[ 12 ]:

  1. 抗菌薬:食虫植物由来のタンパク質分解酵素が、多剤耐性菌に対しても効果を示すことが報告されています。
  2. 抗炎症薬:食虫植物の抽出物が炎症性サイトカインの産生を抑制することが確認されており、新しい抗炎症薬の開発につながる可能性があります。
  3. 抗がん剤:一部の食虫植物由来の化合物が、がん細胞の増殖を抑制する効果を示すことが報告されています。
  4. 創傷治癒:食虫植物の消化酵素が、慢性創傷の治癒を促進する可能性が研究されています。

 食虫植物の毒性については、種によって異なります。多くの食虫植物は人間に対して直接的な毒性はありませんが、一部の種では注意が必要です:

  1. ネペンテス属:一般に低毒性ですが、大量に摂取すると胃腸障害を引き起こす可能性があります。
  2. サラセニア属:一部の種の根に毒性があることが報告されていますが、通常の接触では問題ありません。
  3. ウトリクラリア属(タヌキモ):水生の食虫植物で、人間に対する毒性はほとんどありません。
  4. ドロセラ属(モウセンゴケ):一部の種に皮膚刺激性があることが知られていますが、深刻な毒性はありません。

 このように、食虫植物は医療や健康分野において、新しい治療法確立の幅広い可能性を秘めています。

e) 食虫植物と環境:

 食虫植物は環境指標としての役割も果たしています。多くの種が特定の環境条件に強く依存しているため、その生育状況は環境の健全性を示す指標となることがあります。特に湿地環境の保全状態を評価する上で重要です[ 13 ]。

 しかし、気候変動は多くの食虫植物の自然生息地に深刻な影響を与えています。特に、高山や特定の湿地帯に生息する種は、気温の上昇や降水パターンの変化によって大きな脅威にさらされています。

 一方で、食虫植物の適応能力は気候変動適応研究にも貢献しています。極端な環境条件に適応する能力の研究は、気候変動下での作物改良や生態系の保全に重要な知見をもたらす可能性があります[ 14 ]。

f) 食虫植物の教育と文化的影響:

 食虫植物は、その独特な生態から、生物学教育において非常に有効な教材となります。植物の適応、進化、生態系の相互作用などの概念を、具体的かつ興味深い形で示すことができます。

 また、食虫植物は文学や芸術、ポップカルチャーにも大きな影響を与えてきました。チャールズ・ダーウィンの著作「食虫植物について」[ 15 ]や、映画「リトルショップ・オブ・ホラーズ」[ 16 ]など、食虫植物は想像力をかき立てる存在として文化的にも重要な位置を占めています。

まとめ

 食虫植物は、その独特な生態と形態から、科学、技術、医療、環境、教育など多岐にわたる分野で重要な役割を果たしています。進化の不思議な例として、生態系の重要な構成要素として、そして新しい技術や医薬品開発のインスピレーション源として、食虫植物は私たちに多くの知見と可能性を提供しています。

 同時に、多くの食虫植物種が絶滅の危機に瀕しているという現実も忘れてはいけません。食虫植物の保全と持続可能な利用のバランスを取ることが、今後ますます重要になってくるでしょう。

 食虫植物の研究と保護は、単に一つの植物群を守るだけでなく、生物多様性の重要性を理解し、自然界の驚くべき適応能力と生態系のバランスの繊細さを学ぶ機会を私たちに提供しています。

[ 1 ]: 食虫植物の収斂進化をゲノムから探る

[ 2 ]: Convergent and divergent evolution in carnivorous pitcher plant traps

[ 3 ]: Genomes of the Venus Flytrap and Close Relatives Unveil the Roots of Plant Carnivory

[ 4 ]: The carnivorous syndrome in Nepenthes pitcher plants

[ 5 ]: Recent trends in fabrication of nepenthes inspired SLIPs: Design strategies for self-healing efficient anti-icing surfaces

[ 6 ]: A soft pneumatic bistable reinforced actuator bioinspired by Venus Flytrap with enhanced grasping capability

[ 7 ]: A bioinspired, self-powered, flytrap-based sensor and actuator enabled by voltage triggered hydrogel electrodes

[ 8 ]: Bio-inspired drug delivery systems: A new attempt from bioinspiration to biomedical applications

[ 9 ]: Foliar mineral nutrient uptake in carnivorous plants: what do we know and what should we know?

[ 10 ]: Bacterial Recruitment to Carnivorous Pitcher Plant Communities: Identifying Sources Influencing Plant Microbiome Composition and Function

[ 11 ]: A Carnivorous Plant Fed by Its Ant Symbiont: A Unique Multi-Faceted Nutritional Mutualism

[ 12 ]: Biological Potential of Carnivorous Plants from Nepenthales

[ 13 ]: Conservation of carnivorous plants in the age of extinction

[ 14 ]: Sundews Climate Change: Impact & Adaptation

[ 15 ]: Insectivorous Plants by Charles Darwin

[ 16 ]: リトルショップ・オブ・ホラーズ

[ 17 ]: 食虫植物の適応進化

[ 18 ]: ゲノム重複が食虫植物の進化を牽引 〜モウセンゴケ科に属するコモウセンゴケ、ハエトリソウ、ムジナモの3種の ゲノム解読により判明〜

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