日本固有の美しいユリ

Lilium_auratum

 全世界にユリ(ユリ科ユリ属)は110-130種、日本には十数種があり、その中には日本固有種や園芸改良に貢献した日本特産種が含まれます。日本に生息するユリをまとめてみると下表のようになります。現在、日本固有種と言われるのはヤマユリ、スカシユリ、イワトユリ、ササユリ、オトメユリ、ウケユリ、タモトユリの7種です。

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名称生息国日本生息地域特徴
ヤマユリArchelirion日本固有本州、四国、九州ユリの王様・強芳香
>サクユリ(別名タメトモユリ)Archelirion日本固有伊豆諸島・伊豆半島のみ日本最大のユリ
スカシユリDaurolirion日本固有本州、四国、九州の海岸地域
>イワユリDaurolirion日本固有北陸地方以北の日本海海岸
>イワトユリDaurolirion日本固有中部地方以北の太平洋海岸
>ミヤマスカシユリDaurolirion日本固有埼玉県武甲山周辺絶滅危惧IB類 (EN)
>ヤマスカシユリDaurolirion日本固有本州中部以北の山地準絶滅危惧(NT)
エゾスカシユリDaurolirion日本・北東アジア東北、北海道、本州中部以北の高山帯絶滅危惧種
ササユリArchelirion日本固有伊豆より西の本州、四国、九州Lilium japonicum
オトメユリ(別名ヒメサユリ)Archelirion日本固有新潟、山形、福島の限定山域Lilium rubellum、絶滅危惧II類(VU)
テッポウユリLeucolirion日本・中国本州、四国、九州強芳香
カノコユリArchelirion日本・台湾・中国四国、九州、本州西部シーボルト持ち帰り
ウケユリArchelirion日本固有奄美大島から徳之島強芳香、絶滅危惧IB類(EN)
タモトユリArchelirion日本固有トカラ列島口之島のみ強芳香、絶滅危惧IB類(EN)
スゲユリSinomartagon日本・東アジア四国以南の九州、沖縄最小型のユリ
>キバナスゲユリSinomartagon日本・東アジア沖縄・奄美大島
ヒメユリSinomartagon日本・中国・朝鮮本州、四国、九州
オニユリSinomartagon日本・東アジア北海道南部から九州
>オウゴンオニユリSinomartagon日本対馬、九州北部のみ
コオニユリSinomartagon日本・中国・朝鮮本州、四国、九州
>タンゴコオニユリSinomartagon日本近畿地方北部
クルマユリMartagon日本、朝鮮、中国北海道南部から九州
日本固有のユリ >は上の種の亜種

APG体系とユリ分類

 1998年に始まった葉緑体DNAの分子生物学的解析から、被子植物を分類する研究は2016年に APG IV に至っています。これまでAPG により”目・科”の大幅な改変があり、APG IV で”目・科”はほぼ安定しましたが、属レベルの分類は依然として研究が進行中です。従来のユリ科ユリ属は、APG によりユリ科の範囲が大幅に縮小され、多くの属がアマリリス科やヒガンバナ科に移動しました。

 先にユリの”現在”の日本固有種を挙げましたが、今後 APG の解析が進むと変更される可能性があります。ユリの分類には以下のような点に困難があります。

  • ユリ属は形態的特徴の変異が大きく、種間交雑も容易なため、形態のみでの分類は困難。そのため、分子系統学的手法が重要となる。
  • これまでのAPG 体系は主に科や属レベルの分類に焦点を当てているため、種内の変異や亜種、変種の扱いについては必ずしも明確な指針がない。
  • 種間の遺伝子差異を明確にする遺伝子マーカーの探索は、現在も進行中で研究の進捗に依存する。
  • 自然交雑や園芸による人為的交雑によって生じた中間的な形質を持つ個体群の分類学的扱いは、APG 体系においても難しい課題であり、更なる研究が必要。
  • ユリの起源を辿るためには、博物館などに保管されている古い標本のDNA分析を行い、現在のユリと比較する研究が重要。

結局、日本固有のユリ

 結局、APG 体系の進展を踏まえ、日本固有のユリと言えるのは、日本国内のみに自生し、独自の進化を遂げ、形態的にも他のユリと明確に区別できる特徴を持つ必要があります。しかし、現在も研究が進められているため、固有種の定義や数は将来的に変更される可能性があります。

 これらの観点から、もう一度表見てみます。

 2000年当初までは、サクユリはヤマユリの変種と扱う論文がありましたが、現在はサクユリ(Lilium speciosum)とヤマユリ(Lilium auratum)は異なる学名であり、形態的特徴や自生地や分布が異なることから、別種として認識されています。

 スカシユリは、その変種や地域個体群の分類が複雑で、呼称と自生地の認識が錯綜しています。特に、イワトユリ、ミヤマスカシユリ、ヤマスカシユリなど、多くの変種や地域個体群が存在し、それぞれの系統関係を明らかにするためには、更なる分子生物学的解析が必要です。

 学名を見るとスカシユリ(Lilium maculatum)、イワユリ(Lilium maculatum var. maculatum)、イワトユリ(Lilium maculatum var. maculatum)ミヤマスカシユリ(Lilium maculatum var. bukosanense)、ヤマスカシユリ(Lilium maculatum var. monticola Hara)、エゾスカシユリ(Lilium pensylvanicum Ker Gawl.)となっており、イワユリ、イワトユリ、ミヤマスカシユリ、ヤマスカシユリはスカシユリの変種とされます。

 20世紀初頭のころ、テッポウユリは南西諸島(特に沖縄や奄美大島)に自生し、日本固有種とされていました。その後、テッポウユリが台湾や中国南部、フィリピンにも分布し、分子系統学的に他地域のテッポウユリと日本のテッポウユリが同一種であることが確認されました。

 オニユリは通常DNAが3倍体であり、自然界での交配による種子形成ができず木子(むかご)によるクローン繁殖を行います。このことは、2倍体の実生から突然変異でオニユリが発生し、種として固定された経緯が考えられます。主に対馬に自生するオウゴンオニユリはDNAが2倍体であり、実生で有性繁殖し変種を作り出す可能性があります。現在は、オウゴンオニユリはオニユリの亜種の位置づけですが、分子系統学の進展で位置が逆転し、オニユリの原種とされる可能性があります。

日本のユリを育てる

 先の表にも挙げたように、日本固有のユリの多くは生息地で激減し、多くが絶滅危惧種になっている状況です。明治から昭和初期にかけての園芸熱により、多くのプラントハンターによって乱獲されたことが、日本固有のユリの減少の要因となりました。さらに、森林開発や生息地の破壊、地球温暖化による気候変動なども、これらのユリの生存を脅かしています。

 ユリは、その特性上、孤立した固有の生活環境から他の環境へ移されると、実生で容易に交雑してしまい、遺伝形質が変化します。一度交雑が起こると、純粋な固有種への復元は非常に困難です。このため、日本固有のユリの保護は、単に個体数を増やすだけでなく、遺伝的な純粋性を保つことも重要な課題となっています。

 現在、多くの日本固有のユリ種は、熱心な愛好家や保護団体によって守られ、継承されています。皮肉なことに、かつて園芸熱によって乱獲されたユリが、今度は園芸活動を通じて保護されているという状況です。これらの活動は、日本のユリの存続にとって非常に重要な役割を果たしています。日本のユリを庭に迎える際は、その希少性と保護の必要性を十分に理解し、適切な栽培環境で育てることが大切です。

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