路傍の花のワナ
春から秋にかけて、道端や空き地で色とりどりの花を見かけることが多くなりました。鮮やかな赤色のナガミヒナゲシ、星形をした紫色のヤナギバルイラソウ、純白で凛と咲くタカサゴユリなど、思わず足を止めて見入ってしまうほど美しい花々です。しかし、これらの美しい花の中には、私たちの生態系に大きな影響を与える可能性を秘めた外来種が含まれています。
増える路傍の美しい花々
近年、道路脇や空き地で目にする機会が増えている美しい花々。特に目立つのが以下のような外来種です。
- ナガミヒナゲシ: 鮮やかな赤い花を咲かせる一年草。繁殖力が非常に強く、アスファルトの隙間など、わずかな土壌でも生育することができます。
- ヤナギバルイラソウ: 星形の紫色の花が特徴的な多年草。種子だけでなく、茎の断片からも増えるため、爆発的に繁殖する可能性があります。
- タカサゴユリ: 純白で大きな花を咲かせるユリ科の多年草。種子を大量に作り、風に乗って遠くまで運ばれるため、急速に分布を広げています。
これらの花は、その美しさゆえに多くの人々の目を引きますが、同時に生態系に大きな影響を与える可能性がある「侵略的外来種」でもあります。
侵略的外来種の特徴
外来種の中でも特に注意が必要な侵略的外来種は、以下のような特徴を持っています:
- 繁殖力が非常に旺盛: わずかな種子や根茎からでも増殖し、短期間で広範囲に広がることができます。
- 環境への適応力が高い: 様々な環境条件に適応し、在来種が生育できないような場所でも生育することができます。
- 人為的な移動や拡散が容易: 種子が風や動物によって運ばれたり、土壌や植物の移動に伴って拡散したりすることがあります。
これらの特徴により、侵略的外来種は急速に分布を広げ、路傍の花として目にする機会が増えています。
このような外来種を安易に持ち帰ったり、繁殖させたりすると、以下のような深刻な問題が発生する可能性があります。
- 在来種の生息地の喪失: 侵略的外来種は、在来種の生息地を奪ってしまうことがあります。その結果、地域固有の植物が激減し、生態系のバランスが崩れます。
- 在来種との交雑: 外来種が在来種と交雑することで、純粋な在来種が消失してしまう可能性があります。これは、地域の生物多様性を脅かす重大な問題です。
- 生態系の破壊: 外来種の中には、その地域に天敵が存在しないものもあります。そのような場合、外来種が爆発的に増殖し、地域の生態系を破壊してしまう恐れがあります。
- 病気の媒介: 外来種は、同系統の在来種を脅かすウイルスや菌などの宿主となる可能性があります。
- 害虫の媒介: 特定害虫の移動担体や食物となり、同系統の在来種に深刻な被害をもたらす可能性があります。
侵略的外来種の分類
環境省および農林水産省によって、侵略的外来種は以下のように分類区分されています。
- 生態系被害防止外来種
- 総合対策外来種(総合的に対策が必要な外来種)310種類
- 緊急対策外来種:対策の緊急性が高く、積極的に防除を行う必要がある外来種。
- 重点対策外来種:大な被害が予想されるため、対策の必要性が高い外来種。
- その他の総合対策外来種
- 産業管理外来種(適切な管理が必要な産業上重要な外来種)18種類
- 産業又は公益性おいて重要で、代替性がなく、その利用にあたっては適切な管理が必要な外来種。
- 定着予防外来種(定着を防する外来種)101種類
- 侵入予防外来種:国内に未定着のもの。定着した場合に生態系等への被害のおそれがあるため、導入の予防や水際での監視、野外への逸出・定着の防止、発見した場合の早期防除が必要な外来種。
- その他の定着予防外来種:国内に導入されているが、自然環境における定着は確認されていない種。
- 総合対策外来種(総合的に対策が必要な外来種)310種類
- 法的対応が必要な外来種
- 特定外来生物
- 未判定外来生物
- 植物防疫法規制
ブラックバスやカダヤシ、セアカゴケグモなど特定外来生物という言葉をよく耳にします。特定外来生物とは、総合対策外来種の中で法的対応が必要な外来種です。特定外来生物には、輸入、放出、飼養等、譲渡し等の禁止といった厳しい規制がかかります。植物のリストをみると緊急対策外来種のほどんどは特定外来種に指定されていますが、外れるものもあります。逆に緊急対策外来種ではないものでも特定外来種に指定されるものがあります。このリストは定期的に更新されるので、最新版を参照する必要があります。
未判定外来生物とは、特定外来生物と近縁の生物で、生態系などに被害を及ぼすかどうか未判定である生物として環境省が指定したものをいいます。未判定外来生物は輸入時に事前届出が必要になります。
植物防疫法規制とは、国内に持ち込まれるすべての動植物に対する規制です。
植物に関しては以下のような場合、持ち込み禁止になります。
- 土そのもの
- 土付きの植物
- 植物を害する検疫病害虫
- イネワラ及びイネモミ
- 輸入禁止品:果実・野菜等で生産国・輸出国・地域によって輸入が禁止されているものがあります。事前に”輸入条件に関するデータベース”での確認が必要です。
生態系被害防止外来種リスト
侵略的外来種の分類区分は複雑ですが、環境省から提供される以下のパンフレットは簡潔にまとめられています。
植物に関しては、木本植物(45 種)、草本植物(陸生植物)(108 種)、草本植物(水生植物)(37 種)の外来植物がリストアップされています。
植物防疫法規制
おおまかな植物防疫に関するパンフレットです。国内に植物を持ち込む際は、輸出国の植物防疫機関が発行した検査証明書(植物検疫証明書:phytosanitary certificate)が必ず必要です。果実・野菜等で生産国・輸出国・地域によって輸入が禁止されているものがあります。事前に”輸入条件に関するデータベース”での確認が必要です。
園芸種の栽培注意点
園芸種の中には多くの外来種があります。生態系被害防止外来種であっても法的対応が必要ない外来種であれば、栽培や譲渡は自由に行えます。しかしながら、園芸種の栽培には適切に管理(捨てない、逃がさない、放さない)する責任があります。
- 栽培する園芸種の情報収集とリスト化
- 購入前に、その植物が生態系被害防止外来種でないか確認する。
- 栽培継承を念頭に、家人にもわかるように栽培品種をリスト化する。
- 生態系被害防止外来種は、栽培を避ける。 美しい花であっても、生態系への影響を考えると、栽培は控えるべきです。
- 生態系被害防止外来種を栽培する場合
- 根茎が拡散しないよう、鉢植えで管理する。
- 一年草は種子が拡散しないよう摘花するか、結実までに枯死させる。
- 多年草は種子が拡散しないよう摘花するか、結実までに切り戻す。
- 地植えにしない。とくに地下茎、ランナー、つた性の外来種は野外に逃がさない。
- 溝や川に流したり、池、湖などの近傍で栽培しない。継続的な水の供給で容易に増殖する場合があります。
- 剪定した枝や根、種子がある場合、拡散しないよう適切に処分する。 燃えるゴミとして処分するか、しっかりと袋に密閉して可燃ゴミとして処理をする。
- 野外で見つけた美しい花を安易に持ち帰らない。 外来種を持ち帰ることが、生態系への影響につながる可能性があります。冒頭写真のオオキンケイギクは、生態系被害防止外来種の”緊急対策外来種”、”特定外来生物”に指定されています。前述したヤナギバルイラソウ、タカサゴユリは、ともに生態系被害防止外来種の”その他の総合対策外来種”に指定されています。ナガミヒナゲシは生態系被害防止外来種の指定はありませんが、多くの自治体条例で駆除対象植物に指定されています。
- 地域の在来種や絶滅危惧種の保護活動に参加する。 地域の自然を守る活動に参加することで、生態系保全に貢献することができます。
美しい花々に魅了されるのは自然な感情ですが、その背後にある生態系への影響を理解し、責任ある行動をとることが大切です。私たち一人一人が、地域の生態系を守る担い手となることで、美しい自然を次世代に引き継ぐことができます。