藻やコケを愛でる

系統樹：藻類・コケ植物・小葉植物

　植物界の始めの層にある藻類やコケ植物を愛でる機会はあるでしょうか？

系統樹（Phylogenetic tree）

　系統樹を見るとき、その読み方に悩んだことはありませんか？

　例えば、小葉植物と大葉植物の二股を見て、”このころの地球は小葉植物に溢れていて、その中から大葉植物が進化して行った”、それとも”様々な形態や遺伝子構造を持つ多様な維管束植物から、始めに小葉植物が進化して行った”、どちらの解釈が正しいのでしょう？

　系統樹の横線は時間軸です。現存するすべての植物種は時間軸の右末端にいます。系統樹から分枝して現在に至る時間軸には、過去に絶滅した膨大な植物種が埋まっています。小葉植物が派生する前の地球には多様な初期の維管束植物とコケ植物の世界があり、維管束植物が小葉植物と大葉植物への進化能力を秘めた共通祖先です。

　系統樹からあるグループが独立分枝するとは、環境条件に適応し生態的ニッチを獲得（生態的独立）し、他集団と明確に区別できる遺伝的特徴を獲得（遺伝的独立）して、もはや他集団と交配が不可能または交配しても生殖能力のある子孫を残せない状態（生殖的隔離）になったことをいいます。すなわち共通祖先の原始形質から、新たな派生形質を獲得した結果、もはや系統樹の後戻りができなくなった状態です。そしてその独自の進化を脈々と継承してきたグループが、現在のおよそ30万の植物種ということになります。

藻類（Algae）

　藻類（Algae）には、紅藻（Rhodophyta）、陸上植物に近い緑藻（Chlorophyta）、海藻として知られる大型の褐藻（Phaeophyceae）があります。アクアリウムで、黒髭苔として嫌われる藻類は紅藻です。また、水槽ガラスに見られる褐色の”コケ”はコケ類ではなく、主に珪藻（Diatomea）などの藻類です。珪藻（ケイソウ）は単細胞性の藻類のグループで、細胞が珪酸質の被殻に覆われる特徴があります。珪藻被殻の幾何学的文様には、人智を超えた魅力があります。

　水槽の中で愛でられる藻類としてマリモがあります。マリモ（毬藻、学名：Aegagropila linnaei）は、淡水性の緑藻です。水槽に魚の隠れ家として植える金魚藻は、藻類ではなく系統樹ではもっと上層の”藻”で括られた水生植物の俗称です。

コケ植物（Bryophyta）

　コケ植物は蘚苔類に分類され、地衣類は藻類と菌類の共生体であり、異なる生物群です。コケ植物は世界に約2万種、日本に約1,700種存在し、蘚類・苔類・ツノゴケ類の3群に大別されます。京都の西芳寺（苔寺）には2000年に121種のコケが確認されています。身近に利用されるコケとして、園芸で使われるミズコケが有名です。近年、コケに癒しを求める気運があり、苔玉や苔テラリウムが人気になっています。園芸用のコケには、ヒノキゴケ、ホソバオキナゴケ、クジャクゴケ、コツボゴケ、タマゴケなどがありますが、蘚類のコケです。ホウオウゴケは、陸生のコケですが、水中でも生育できるため、アクアリウムなどでも利用されます。

小葉植物（Lycophytina）

　小葉植物は、シダ植物や蘚苔類と似た特徴を持っていますが、進化の早い段階に分岐した古代植物の生き残りです。約4億年前のデボン紀に出現したとされています。ヒカゲノカズラ目 （Lycopodiales）、イワヒバ目 （Selaginellales）、ミズニラ目 （Isoetales）の3目がありますが、共通点として胞子で繁殖することや、維管束を持つことが挙げられます。

　ヒカゲノカズラは、古くから薬用植物として利用されてきました。その胞子は「石松子」と呼ばれ、漢方薬や粉末状の滑剤として使用されています。また、クリスマスリースの装飾にも使われることがあり、北欧では冬至祭の伝統的な装飾植物として親しまれています。

　イワヒバは、その復活草としての特性から「長寿」や「不老不死」の象徴とされ、日本の伝統的な盆栽や山野草栽培で重要な位置を占めています。乾燥すると葉を内側に巻き込み枯れたように見えますが、水を与えると復活することから、生命力の強さを表す植物として尊ばれています。

　ミズニラは、水質浄化能力が高いことで知られ、環境保全の観点からも注目されています。また、絶滅危惧種に指定されている種も多く、生物多様性の保全において重要な役割を果たしています。

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