A. 園芸種のデータベース : 被子植物の分類

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目次
APG IV 略図

 APG IV体系では被子植物は64目に分類されています。さらに目は、”科 – 属 – 種”のレベルで分類が行われます。しかしながら、各レベルの数を正確に把握することは、以下の理由で困難です。

  1. APG体系の目的と範囲
    • APG体系は主に”科”レベルまでの高次分類を目的としており、”属”や”種”レベルの詳細な分類は必ずしも網羅していません。
    • “目”レベルの分類も完全には確立されておらず、一部の分類群では曖昧さが残っています。
  2. 分類学的な不確実性
    • 新種の発見や分子系統学的研究により、分類が頻繁に更新されています。
    • 一部の分類群では、種の境界が不明確で、専門家の間でも意見が分かれることがあります。
  3. データの不完全性
    • 世界中の全ての植物種が完全に記載・分類されているわけではありません。
    • 特に熱帯地域など、未調査の地域に未発見の種が多く存在する可能性があります。

 このような背景がありますが、ネット上から検索できるデータベースがいくつかあります。

  • Angiosperm Phylogeny Website
    • http://www.mobot.org/MOBOT/research/APweb/
    • ミズーリ植物園が提供する、APG分類体系に基づいた被子植物の系統と分類に関する情報源
    • 当ブログで提示する系統樹はMOBOTの資料を参照しています。
  • The Plant List
    • http://www.theplantlist.org/
    • 王立キュー植物園が提供する、最新の分類学的情報を含む包括的なデータベース
  • Plants of the World Online
    • http://www.plantsoftheworldonline.org/
    • 王立キュー植物園が提供する、最新の分類学的情報を含む包括的なデータベース
    • 被子植物APG IV体系以外の分類については、世界の植物学者のほとんどが、Tree of Life 」のデータベースで定義している「標準」分類をほぼ受け入れています。
  • GBIF : Global Biodiversity Information Facility
    • https://www.gbif.org/
    • 世界中の生物多様性データを集約した大規模なオープンデータベース

 中でも、ミズーリ植物園(MOBOT)が提供する情報は、APG体系で整理され”科 – 属 – 種”の数値を挙げて説明されており、新しい情報で頻回に更新されます。MOBOTによれば、現在の被子植物は、およそ433科13303属285534種が存在し、以下の表になります。

スクロールできます
No目名英名
1アムボレラ目Amborellales111
2スイレン目Nymphaeales3680
3アウストロバイレヤ目Austrobaileyales35100
4カネラ目Canellales710125
5クスノキ目Laurales7912858
6モクレン目Magnoliales61283,140
7コショウ目Piperales4174,170
8センリョウ目Chloranthales1475
9ショウブ目Acorales112
10オモダカ目Alismatales141664,785
11ヤシ目Arecales21922,603
12キジカクシ(クサスギカズラ)目
キジカクシ目ラン科
Asparagales141,12236,265
13ツユクサ目Commelinales568812
14ヤマノイモ目Dioscoreales621900
15ユリ目Liliales10671,580
16タコノキ目Pandanales5361345
17サクライソウ目Petrosaviales123
18イネ目Poales1499718,875
19ショウガ目Zingiberales8922,185
20マツモ目Ceratophyllales111
21ツゲ目Buxales17120
22ヤマモガシ目Proteales4851,750
23キンポウゲ目Ranunculales71994510
24ヤマグルマ目Trochodendrales122
25ビワモドキ目Dilleniales111360
26グンネラ目Gunnerales2242
27ユキノシタ目Saxifragales151122,600
28ブドウ目Vitales1171,000
29ウリ目Cucurbitales71072,985
30マメ目Fabales476220,410
31ブナ目Fagales7331,175
32バラ目その1その2その3
その4その5その6
Rosales92638,010
33ハマビシ目Zygophyllales224345
34ニシキギ目Celastrales2941355
35キントラノオ目Malpighiales3671616,065
36カタバミ目Oxalidales6581,845
37アブラナ目Brassicales194055,035
38クロッソソマ目Crossosomatales71266
39フウロソウ目Geraniales217742
40フエルテア目Huerteales4629
41アオイ目Malvales103386,005
42フトモモ目Myrtales938013,005
43ピクラムニア目Picramniales1450
44ムクロジ目Sapindales94796,570
45ベルベリドプシス目Berberidopsidales234
46ナデシコ目Caryophyllales3774911,620
47ビャクダン目Santalales141511,992
48ミズキ目Cornales651590
49ツツジ目Ericales2234612,005
50クロタキカズラ目Icacinales122195
51メッテニウサ目Metteniusales11155
52ガリア目Garryales2318
53リンドウ目Gentianales51,12120,145
54ムラサキ目Boraginales81503,120
55ヴァーリア目Vahliales115
56ナス目Solanales51653,945
57シソ目オオバコ科シソ目ゴマノハグサ科Lamiales241,05923,755
58セリ目Apiales74945,489
59モチノキ目Aquifoliales33412
60キク目Asterales11174326,870
61ブルニア目Bruniales11374
62マツムシソウ目Dipsacales2461,090
63エスカロニア目Escalloniales110131
64パラクリフィア目Paracryphiales1238
APG体系の”目-科-属-種”のおおよその数 ミズーリ植物園(MOBOT)

園芸種

 APG体系のそれぞれの目の中に、いくつの園芸種があるのか把握するのは、以下の理由でさらに困難です。

  1. 園芸種の特殊性
    • 園芸種の定義が明確でなく、野生種との境界が曖昧な場合があります。
    • 人為的な交配や選抜により作出された品種も多く、これらを分類学的にどう扱うかが問題となります。
  2. 分類情報の更新と統合の遅れ
    • 新しい分類学的知見が常に生まれていますが、それらを統合したデータベースの更新には時間がかかります。
    • 異なるデータベースや文献間で、分類情報に不一致が生じることがあります。
  3. 園芸種の登録制度の不完全性
    • 全ての園芸種が公式に登録されているわけではありません。
    • 地域や栽培者によって独自の名称が使用されることもあり、正確な数の把握を困難にしています。

 しかしながら、以下のようなデータソースがあります。

 これらの資料は、栽培植物やマニアックな種を含めるなど、それぞれ異なる視点や範囲で情報を提供しているため、資料間で数値が異なる場合があります。

APG体系と園芸種

 APG IV体系の各目に含まれるおおよその園芸種を、データソースから数を拾ってグラフにしてみます。

APG体系と園芸種

 園芸種が30以上あると思われる目を抜き出してグラフにしています。縦軸は目に属する種の数を非園芸種(青)と園芸種(オレンジ)で示しています。横軸は各目を表しています。

 キジカクシ目、キク目、シソ目などはもともと種の数が大きいため園芸種も多く含まれます。バラ目、キンポウゲ目、ユキノシタ目、ユリ目は種の数に対し、多くの園芸種が存在します。一方、コショウ目やクスノキ目、ブドウ目などあまり園芸種がみられない目もあります。

各目に属するポピュラーな園芸種

 各目に属するポピュラーな園芸種をいくつか列挙してみます。

キジカクシ目 Asparagales :
アガパンサス、アマリリス、アスパラガス、アロエ、アガベ、オンシジウム、カトレア、ギボウシ、ムスカリ、スズラン、ヒヤシンス、クロッカス、グラジオラス、サンセベリア、シンビジウム、スイセン、スノードロップ、デンドロビウム、ネギ、ニンニク、ヒアシンス、ファレノプシス、フリージア、ユッカ、ラン、ワスレグサ、エピデンドラム、クンシラン、コチョウラン、サフラン、シラー、タマネギ、ニラ、ハオルチア、パフィオペディラム、キンバイザサ

キク目 Asterales :
アスター、ガーベラ、キク、コスモス、ダリア、デイジー、マリーゴールド、ヒマワリ、ブルーデイジー、マーガレット、ロベリア、エキナセア、百日草 (ジニア)、ガイラルディア、フジバカマ

シソ目 Lamiales :
ラベンダー、ミント、バジル、サルビア、ローズマリー、ジャスミン、ジギタリス(フォックスグローブ)、アジュガ、ベロニカ、トレニア、キンギョソウ、チェリーセージ、オリーブ、ライラック、モクセイ

マメ目 Fabales :
アカシア、エニシダ、クローバー、ソラマメ、ルピナス、レンゲソウ、ワイステリア(フジ)、ミモザ、ハギ、インゲンマメ

リンドウ目 Gentianales :
リンドウ、プルメリア、キョウチクトウ、コーヒーノキ、カロライナジャスミン、ミヤマリンドウ、トルコギキョウ、アケボノソウ

イネ目 Poales :
パンパスグラス、ススキ、カレックス、バンブー(竹)、ネズミガヤ(芝生)、サトウキビ、レモングラス、パイナップル、ヤガミスゲ

キントラノオ目 Malpighiales :
パンジー、バイオレット、パッションフルーツ、ポインセチア、ウィロー(ヤナギ)、トウダイグサ、アカメガシワ、クロトン、オトギリソウ

フトモモ目 Myrtales :
フクシア、ユーカリ、ザクロ、ギンバイカ、ブラシノキ、フェイジョア、モモタマナ、ツキミソウ、マツヨイグサ、ユウゲショウ、サルスベリ、ミソハギ、ジャボチカバ、チョウジ、ギョリュウバイ、グアバ、ノボタン、シコンノボタン

ツツジ目 Ericales :
ツツジ、シャクナゲ、ブルーベリー、カメリア(ツバキ)、アザレア、ツリフネソウ、ホウセンカ、インパチェンス、シバザクラ、ギリア、ポレモニウム、ディオスピロス(柿)、サクラソウ・プリムラ、ルリハコベ、アナガリス、マンリョウ、シクラメン、オカトラノオ、サザンカ、チャノキ、ヤブツバキ、エゴノキ、サラセニア、マタタビ、キウイフルーツ

ナデシコ目 Caryophyllales :
カワラナデシコ(ナデシコ)、カーネーション、セキチク、アメリカナデシコ、カスミソウ、センノウ、オグラセンノウ、ツメクサ、ハコベ、コハコベ、イワツメクサ、ダイアンサス、アマランサス、ケイトウ、ポーチュラカ、ブーゲンビリア、サボテン、リモニウム、スターチス、オシロイバナ、マツバボタン、ハゼラン、ルリマツリ

バラ目 Rosales :
バラ、リンゴ、イチゴ、ラズベリー、ブラックベリー、アーモンド、プラム、サクランボ、イチジク、ニレ(エルム)、ケヤキ、シモツケ、キイチゴ、ユキヤナギ、セアノサス、アンズ、ウメ、サクラ

ムクロジ目 Sapindales :
モミジ、カエデ、シトラス(柑橘類)、トチノキ、ランブータン、レイシ、マンゴー、ピスタチオ、カシューナッツ、ウルシ、マホガニー、ゲッキツ、サンショウ

アオイ目 Malvales :
ハイビスカス、シナノキ(リンデン)、バオバブ、ムクゲ、フヨウ、カカオ、ドリアン、オクラ、ジンチョウゲ、ミツマタ、タチアオイ、ワタ、ケナフ

セリ目 Apiales :
ファットシア(ヤツデ)、アンゼリカ、セロリ、パセリ、ニンジン、コリアンダー、クミン

アブラナ目 Brassicales :
アリッサム、ナスタチウム、バージニアストック、ハボタン、クレソン、パパイヤ、ナズナ、キャベツ、ブロッコリー・チンゲンサイ・ミズナ・カブ、ダイコン、ワサビ

オモダカ目 Alismatales :
カラー、アンスリウム、サトイモ、クワイ、ポトス、オオカナダモ、マダガスカル・レースプラント、アマモ

キンポウゲ目 Ranunculales :
クレマチス、アネモネ、ラナンキュラス、デルフィニウム、ヘレボラス、クリスマスローズ、オダマキ、フクジュソウ、コマクサ、ケシ、オサバグサ、レンゲショウマ

コショウ目 Piperales :
コショウ、サダソウ、ペペロミア、ドクダミ、カンアオイ

ナス目 Solanales :
ペチュニア、ダチュラ、アサガオ(モーニンググローリー)、ヒルガオ、ヨルガオ、トマト、ピーマン、ナス

モクレン目 Magnoliales :
モクレン、ユリノキ、タイサンボク、コブシ、ホオノキ、イランイランノキ

ムラサキ目 Boraginales :
ワスレナグサ、ヘリオトロープ、ネモフィラ、ルリソウ、キュウリグサ、ヒレハリソウ

ウリ目 Cucurbitales :
ベゴニア、キュウリ、カボチャ、スイカ、ユウガオ、ズッキーニ、ヒョウタン、ヘチマ、アマチャヅル

クスノキ目 Laurales :
シナモン、ゲッケイジュ、アボカド、クスノキ、ロウバイ

ヤシ目 Arecales :
ココヤシ、アレカヤシ、ビロウ、ワシントンヤシ、カンノンチク、シュロチク、シュロ

ユキノシタ目 Saxifragales :
ユキノシタ、ベルゲニア、アスチルベ、ヒューケラ、イワヤツデ、カランコエ、エケベリア、ボタン、シャクヤク、マンサク、カツラ、ユズリハ、フサモ、スグリ

ショウガ目 Zingiberales :
バナナ、カンナ、ストレリチア(ゴクラクチョウカ)、ジンジャー、クルクマ、ヘリコニア、ウコン、カルダモン

ビャクダン目 Santalales :
ヤドリギ、ビャクダン、オイスタープラント

カタバミ目 Oxalidales :
オキザリス、ムラサキカタバミ、ベルノニア、スターフルーツ

ヤマモガシ目 Proteales :
プロテア、バンクシア、マカダミアナッツ、リューカデンドロン、グレヴィレア、ハケア、ハス

ユリ目 Liliales :
ユリ、チューリップ、アルストロメリア、コルチカム、エンレイソウ、サンダーソニア、グロリオサ、チゴユリ、ホトトギス

ニシキギ目 Celastrales :
ニシキギ、ツルウメモドキ、マサキ、モチノキ、ツリバナ

タコノキ目 Pandanales :
タコノキ、パンダナス、ナベワリ、ホンゴウソウ

ブナ目 Fagales :
カシワ、クリ、コナラ、ミズナラ、シデ、ヤマモモ、クルミ、シラカバ

マツムシソウ目 Dipsacales :
アベリア、ビバーナム、マツムシソウ(スカビオサ)、クナウティア、スイカズラ、サンゴジュ、ハスカップ、オオデマリ、オミナエシ

ブドウ目 Vitales :
ブドウ、ヤブガラシ

ヤマノイモ目 Dioscoreales :
ヤマノイモ(自然薯)、ヤガミスゲ、タチドコロ

ツユクサ目 Commelinales :
ムラサキツユクサ(トラデスカンティア)、カンガルー・ポー、タヌキアヤメ、ホテイアオイ、ヤブミョウガ

フウロソウ目 Geraniales :
ゼラニウム、ペラルゴニウム、エロディウム、モンソニア、ホウセンカ、ゲンノショウコ

ミズキ目 Cornales :
アジサイ、ハナミズキ、ヤマボウシ、ハンカチノキ、キレンゲショウマ、ノリウツギ

モチノキ目 Aquifoliales :
モチノキ、イヌツゲ、ウメモドキ、クロガネモチ 、セイヨウヒイラギ、ハナイカダ

ツゲ目 Buxales :
ツゲ、フッキソウ、サルココッカ

アウストロバイレヤ目 Austrobaileyales :
トウシキミ

スイレン目 Nymphaeales :
スイレン、コウホネ

 このように目の視野から園芸種を見ると、意外な組み合わせが見えてきます。オリーブとサルビアがシソ目、コーヒーノキとトルコギキョウがリンドウ目、ススキとパイナップルがイネ目、柿とキウイフルーツがツツジ目、クレマチスとポピーがキンポウゲ目、OZプランツとハスがヤマモガシ目など、形態学的な印象と分子系統学的な集団にはかなりのギャップを感じます。

 また、オモダカ目はカラーやポトスの園芸種で身近ですが、アクアリウムに用いる大半の水草がここに入ります。特に全海草(被子植物の海草、胞子で増殖する海藻ではない)がオモダカ目に入ります。

 このような植物分類学の視点や知識は、以下のように実際の園芸活動に役立ちます:

  • 植物の育て方:同じ目や科に属する植物は、しばしば似た栽培条件を好みます。例えば、キジカクシ目の多くの植物は、乾燥に強く、日当たりの良い場所を好みます。
  • 病害虫対策:近縁の植物は同様の病害虫に弱いことがあります。例えば、バラ目の植物は黒星病に弱い傾向があります。
  • 交配・育種:同じ属や種の植物間での交配が可能なことが多いため、新品種の開発に役立ちます。
  • 植栽デザイン:異なる目の植物を組み合わせることで、形態や開花時期の多様性を持たせた庭づくりが可能になります。

 一口に園芸種と言っても、花や葉を鑑賞するもの、家庭菜園で栽培する野菜、資材用の本木など用途や目的で多種多様です。このサイトでは、野に咲く花や園芸種をAPG体系の視点から眺めてみることで、植物の愉しみを皆様とシェアできればと思います。

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